十六首

底冷えの静けさのなかきみの死は地中をつたひ蛇口より漏る



記憶せよ身を切る風にさらはれし汝の黒髪もわが眼差しも



迷はぬやう冬の道ゆく街灯のひとつひとつに影をみとめて



後ろすがた距離あることのときめきの影をふみしめ陸橋をゆく



眼下には電車の眠りわれもまた静かにならぶ人とをりたり



ほんとうの白が見たいか雪空を切りさきゆけるひよどり一羽



あざなふやう満たしてゆきし湯呑みにはひとくち分の夜があふれき



たばこ吸ふ怠惰であらうとなからうとため息ひとつ紛れこみたり



湯上りの香りに呆け一日が無駄だつたやうなこれからのやうな



蝸牛いつぴき夜をのぼりゆく明日を受くる両手ももたず



飾りなき窓辺に夜が正坐せりまんじりともせずそこにをりたり



ざくざくと鋏は冬のゆふぐれを切り裂きゆきぬショー・マスト・ゴー・オン



言ひわけをすることはなし両切りのピースを消せばあらはるる貌          貌:かお



今 、風が曲がつてゆかうとハミングの聴こへてきたる立ち枯れの楡



西日うけ白きタオルをたたむとき身は清らかか問はれてゐたり



いづくから夜となりゆく薄暮にはけふの終はりをためらふ灯り