十三首
滾るほど湯をわかしけり冬の夜のルイボスティーに恨みはなきに
如月の日和よき日に帆を張るはあばらの男のむかしの習ひ
けたたましく笛吹く薬缶ひとりならしばしのあひだ聞きいりてをり
まざまざと散れば芥のさざんかの真つすぐ歩めぬ道となりたり
バラストのひとつひとつと眠りけり心かよはす孤独もありぬ
夜ふかく最終電車を見送りし枕木のごとわれも眠たき
花屋とふ処刑場すぎわがそびら圧されゆきたる早春の中
生花店ようしやなきほど香りたち成し得なかつた罪など思ふ
それぞれの家路を描き夜を往く車窓はながるペルセウスのごと
まばたきは幾万回ととまどひし叶はぬ思ひの習ひなりけり
天は雨 共和国のごとそれぞれの色あざやかな傘ひらきけり 天:そら
ひよどりの呼び合ふ声に応へたるわれに残りし空のいちまい
がらんどう誰のせゐでもない夜の星に打たるる太鼓でありき