二十四首


知らぬまに夜は降りつみまなうらに深くささりし棘に気づけり



三月の見切り発車の春の香に夜は秘密を守りてをりぬ



薄墨のショールをまとひ日は往きぬ迷へば弥生に芽吹く花々



三月の夜のただよふ公園の道なだらかに胸をひらきぬ



山茶花もかたへの風もおくり名をもたずにゆけり春のはじめに



きみはもう花見ることもなかりけり胸さわぎさへかなはぬ空よ



酩酊の夜のみぎはのその果てのわれの敗走うつくしくあれ



お互ひの矛ををさむる音のしてしずかに告げる緋の花言葉



さやうなら白色矮星きみからのことば聞き終へ明りをけしぬ



もうそれは終はつたことですコンビニで水をもとめて春の中へと



この月をかの地の人も見るらむか小さき声で十まで数ふ



わが胸のハートの形に鳥をだき握りつぶせる力も持ちぬ



手のひらに受くるためいき空ひくくひとしく降りし三月の雪



空ゑづきわが落莫の向かうまで胃だか肝だか抱へてゆくよ



切々と風吹くところ落日の半分過ぎて時は止まりき



道づれはいのちを揺らす風ばかり雑巾のやうな祈りを託す



日めくりの別れを生きる幸不幸ゆるぎなく来よ朝のひかり                朝:あした



木蓮の祈りを思ふ昼さがり花であるため花でゐること



後もどりかなはぬ夢の醒めてのち瘡蓋のごと紫木蓮の降る



雨あがりたれが落とせる手袋か掴みそこねし思ひのにほふ



ほつほつと闇にともれる木蓮の白を閉じこめ白くありけり



人目さけその芽はふとり朝には無念の花の咲きそろひたり               朝:あした



怒りなく意見ももたぬをとこへと降るはなびらの一枚ありや



思ひなく情けさへなくさくらばな散るにまかせてやり過ごしたし