2012-01-01から1年間の記事一覧

半年歌

水無月のにほひは青し手さぐりの言葉の杖をついて歩めり ひと雨に花となりゆく六月の杳き眼をしたわれのそれから くちなしは赦し請ふやう移ろへり真白きことのせゐならなくに 赦されたいただそれだけの一日を終へて咲き たる待宵草は 試されてゐたかもしれぬ…

七曜表

いくつもの扉を抜けし密室に手術台ひとつあからさまなり こんなにも明るい部屋で血を流す人のありしか他人ごとのやう マグロのごとく転がりをれば天井にどこへも行けぬ海図ひろぐる 麻酔から戻つてこれぬ心地してうしなふものを数へはじめつ 危急なる運びと…

十四首

口惜しく襟をたてをり冬空に消へゆくのみのわれの喫煙 暮れてゆく冬日のなかの物語たれもヒーローヒロインならず あきらめの後に咲きたる水仙の小さき明りわれも灯さむ 厳寒の野外喫煙コーナーに日本ペンギン寄りそひをりぬ 月までを歩いてゆかむきみといふ…

十七首

オリオンのひくき扉をたたきゐしわれの少年消へてゆきにき 公園の日だまりとほき約束の地にむかひたる冬の黄立羽 回文のはがきがとどく雨の日にスキスキスから滲んでゐたり われ逝ける朝さむければつひにふり雪にまみれるさざんか添へよ たまさかにさき逝く…

十九首

散りおへき命つなぐはこんなにも無防備なるか月にさらされ 問ひかける鏡の中のこの皺は何をはこびしいつの運河か 髭を剃る詫びいるやうな貌うかび約束事はなべて重たし 起きぬけの鏡にうつる輪郭をなぞれば頬の骨で止まりぬ 負ひ目ゆゑきみの言葉の端々を取…