2020-01-01から1年間の記事一覧

小夜子その

月光62号(2019/12/31発行) 月光にかすか声ありかたわらを擦り傷のよう過ぎてゆきたり 小夜子その体をさらし月光の通り過ぎゆく四肢の木漏れ日 月光:つきのひ 一月の水のにおいや火星にもそれはありやとつばきが落ちる 小夜子その人差し指を口にあて睦月は…

Sad Song

月光61号(2019/10/31発行) 六月のUndercurrent死者たちも名を呼ばれまた息継ぎをする 春はゆき海の面に雨が降りやがて潮流 たどり着くまで 面:おもて 雨は止みあじさい色のさまざまな日の丸の丸咲いていたるよ 水無月に猛暑日ありてぐしゃぐしゃとペット…

濡れた朝刊―クリスチャン・ボルタンスキー展へ行く

月光60号(2019/08/31発行) 雪ふれば「私の上に…」と口をつく中也の倍の齢かさねて * シクラメン売れ残りたる店先の雪ふらずともほのかに明し COPD泳ぐがごとく息を継ぎ噎せるがごとく葉桜を過ぐ 思い出はフィルムのように傷みだしさよならの日に降りしさみ…

千の習作 ミル・エチュード

月光59号(2019/06/30発行) はにかみは彼の思想か夕暮れを差し出すように言葉を鎮め 含羞の漢だったよ背を丸め私と並びひとつの傘に 漢:おとこ くちぐせの「おれは好きやで」頑なな主張にあらず飲み干すグラス 指焦げる臭いがしたか傾けるグラスはいつもジ…

死地へ行く

月光58号(2019/04/30発行) もし、神さまが私を長生きさせてくださるのなら、私は社会に出て、人類のために働きたいのです ― アンネ・フランク 移ろいしアンネの薔薇の棘はなぜ鋭くありぬ神の悪戯 死地へ行く たわわなる死を実らせてわが胸の喫水線は深まり…