2015-01-01から1年間の記事一覧

秋天

やれ、空へ一つの旗を掲げおりここに居るよとわれは惑いて 居:お 秋雨は音叉ふるわせこの道を戻るなかれと過ぎてゆきたり 加害者であるべきことの仕方なく問わず語りに剥がれゆく空 秋天の福音つげる雲たかく羊いっぴきを贖罪として 思う、とはいつかかなら…

光りの中の八月

雷雲の眩しかりけり少年のひとりが消えし夏のとびらよ * 舌を垂れ涎を垂れて犬のごと上目遣いのいち日のあり 微熱あり朝へしのびくる雨とひと匙すする粥のにおいと 朝:あした ひと口の水わけあいし八月の花火を恐る人のありたり 墓を抱くあなたもわれもし…

八月の異称  

もうきみを失うこともなかりけり始まらぬ芝居の幕があく バス停のベンチにすわる男おりただ見送るだけの男なり これからは腹話術の時代がくるよわたしでもないあなたでもない 猛暑日に汗の流れる正しさよ他人の口を借りることもなし 鼻歌をお風呂でうたう癖…

デュアル

水菓子のたとえばそれは傷ついた鳥をつつんだ手の椀に似て 包むという生殺与奪おおいなる咎でありしか説かれる愛は そう、たとえば机のうえのノートにもはにかむような血の痕があって 日記にはいまだに涸れぬみずうみにさまようきみの航跡のあり ひたすらに…

みずうみは水に溺れて

ここからは致命傷なの指切りの指で引かれる切り取り線 赦せとは言えない日々へこの頭蓋落日のごと傾いでゆきぬ こぼれくる言葉をひろう春の日の影あわくしてきみは他人に 白皿に片身の魚もうこれはわたしではないあなたでもない 西日入るキッチンごろんとわ…

懇願

何ごとも始まるでなく終わるにも一寸足りぬ冬の一日 一寸:いっすん 十年を恃んで雪ぐあやまちをあやまちとして認めてください 古びたる撥条仕掛けの幕引きを許してくれぬサイレンひびく 足跡は腐りゆくものあの空へ飛び立ったのかふつと途切れて 半分は悲鳴…