懇願


何ごとも始まるでなく終わるにも一寸足りぬ冬の一日               一寸:いっすん


十年を恃んで雪ぐあやまちをあやまちとして認めてください


古びたる撥条仕掛けの幕引きを許してくれぬサイレンひびく


足跡は腐りゆくものあの空へ飛び立ったのかふつと途切れて


半分は悲鳴であらん世の中を聞かず聞こえずイルミ光れり


アルバムがひとりで開く廃屋に囚えられおり時間のしずか


目を閉ずる明き陽の中たれしもがわが身に迷う冬の踊り場


一枚をへだてて眠るきみの上に芽ぶく音のごと巡るものあり


焼きつける何ものもなく思い出をめくっていくのは浚いの風か


口ずさむ歌は名なしの当てずっぽうあれやこれやの悲しみの舟


沈黙は異議なし異議あり遣る瀬なし寒水仙に風の渡りぬ


ひとことも口を利かずに暮るる日の痩せるほど研ぐ包丁一柄


その日には足すもののなし艶蕗の黄の花びらの欠けてあれども


季節のすぎ赦しのあとの花のごと頭をたれてもたらさるるもの          季節:とき 頭:こうべ


御破算でお願いします恥多き日々でありますわれであります