Sad Song
月光61号(2019/10/31発行)
六月のUndercurrent死者たちも名を呼ばれまた息継ぎをする
春はゆき海の面に雨が降りやがて潮流 たどり着くまで 面:おもて
雨は止みあじさい色のさまざまな日の丸の丸咲いていたるよ
水無月に猛暑日ありてぐしゃぐしゃとペットボトルが捻られてゆく
野良犬を見ることもなしちかごろは雨に打たれるほどの恋もなし
静かなる海を思えよ垂直にわが身をたもち十字架とする
梅雨空の雲の重たく首すくめ堂島浜のケーキ屋を過ぐ
死者たちが沈んで来そうな六月の雲見上げおりあの海は遠い
海流が戻ってくるの胸元の危険水位を騒がせながら
捜索終了 それでもぼくは頑なで人差し指が芽吹くのを待つ
七月のOver the rainbowその消えゆくものだけが歌になる
つばめ飛ぶ空ひくくしていくつもの螺旋の中に子どもらはおり
大空へ帰ってゆくのかネグレクトされし子どもら雛鳥ならば
そうみんな子どもだったから傷負えばそのまま返す 子どものままで
選ばれしきみはいい子で笑わずに悲しみに満ち前だけを向き
遮眼革気づけばみんな付けていてドラッグストアで売られる未来
根絶やしの「アリの巣コロリ」さりげなく優生思想のならぶ初夏
監視カメラに上書きされるぼくたちの安全保障は瑕疵っているぜ 瑕疵:バグ
それはとてもささいなようでとりかえしつかない地へと運ばれてゆく
子どもらを援けに行くよぼくたちは去りゆくのみの老兵ならず 援け:たすけ
八月のEpitaphまでを歩きおりわが身を守る水飲みながら
蝉声の突然に止み八月のラジオのノイズいまも続けり 蝉声:せんせい
愛国は哀しからずやいつの日も国つきまとい愛にはなれず
驟雨 それは濡れてもいい雨その場かぎりの嘘まみれより
鳴き声は同調圧力もうすでに役目を終えた蝉は転がり
ベタ記事の命ちいさく報じられ灯油をかぶって火を放ちし人
あまたある防犯カメラを言い換えて安心カメラと呼ぶディストピア
先だってよ先だってのこと踏切でふとおばあさんとおじいさんが
人の死を望まぬといえ花殻の生産性はテロルのごとく
容赦なき日射しの中のパラソルのあなたはついに殺意をいだく