2019-03-01から1ヶ月間の記事一覧

春は鳥の言葉を + 1

月光57号(2018/12/31発行) わすれもの光のみちる冬の空さらさら鳥は風に流され 流されし鳥も夕べに帰りつく心あるらし時報のきこゆ ぼんやりときみを見ている輪郭が世界にとけてもう戻れない 戻らない夕陽をひとつポケットに忍ばせおわる冬のいちにち 真冬…

いつの言葉か

月光56号(2018/9/30発行) 日々はゆく核ののちのち月蝕を迎えていたり睦月尽日 何ならん赤銅の月過ぎてなおわたしの胸に重く浮かべり 寒雷か地鳴りかと思う郷愁がざあああーっと襲いくる午后 あの日から日々は不可逆垂直の背を望まれて向日葵はあり 灯をと…

夢は夜にひらいて

月光55号(2018/5/31発行) 寒空の星を盗もう崩れつつ仰向けに建つ丘の住宅 世代ごと地滑り起こすニュータウンされどあなたのめざす北辰 迷路だった行方不明になるぼくと四角に折れる道のそれぞれ 表札を眺めることが好きだった地上を離れたあなたの姓も 少…

夏の妹 / 冬のイカロス

月光54号(2019/1/31発行) 稲妻 突っ立ったままいる妹は神のお告げをぼくに教える 縁側で眠るひととき夕立は人さらいのように時を連れ去り 横文字を声張り上げて縦書きに読む妹は「ホエア・ディッド・アイ・カム・フロム?」 素足から虹は伸びゆく夏空へ打…

リフレインする夏

月光53号(2017/11/25発行) くりかえす後悔ひとつ鳥のよう手なずけ放つ夏の高みへ ああ、ああと雷雲あおぎ後ずさる青のきりぎし空のきざはし 遠雷へ胸をひらいて眠る午後たれもかれもが子どもにもどり 気がつけばひかりは満ちてこんなにもさよならばかりし…

臨戦

月光52号(2017/8/31発行) 美しきAll for One 夕暮れはまこと血の色すべてに及び 血の色の属性捨てたしわが胸に流れていたる過剰なものよ 雷魚とう潜みたるものそのすがた見た者はなし、捨てたらどうか ぬばたまの暗渠にひそむハンザキの唱えきたりし教育勅…

死んだ男

月光51号(2017/6/24発行) 朝まだ来、五時五十五分まくらを濡らしわれは寝ており 六時半起床のベルを止めし朝きみはこの世にあらざりし漢 防御創空裂くために生まれこし花ではあらず冬薔薇の赤 柊の青を語れば手のひらの小さき秘密明かさねばならず 突然に…

夏越えし歌

月光50号(2017/2/28発行) 網の戸にしがみつきたる抜け殻も風にさらされ記憶となりぬ 二つ三つ蝉の骸を踏みし夜はわれを預けて眠たかりしを 囁いて夜にまみれてきみを抱くわれは一つの動詞であらん ご冗談を舫とかれし舟のごと私は過去に抱かれていたの 窓…