春は鳥の言葉を + 1

月光57号(2018/12/31発行) 

 

 

 わすれもの光のみちる冬の空さらさら鳥は風に流され

 

流されし鳥も夕べに帰りつく心あるらし時報のきこゆ

 

ぼんやりときみを見ている輪郭が世界にとけてもう戻れない

 

戻らない夕陽をひとつポケットに忍ばせおわる冬のいちにち

 

真冬日とニュースが告げるざっくりのセーター選ぶ採血のため

 

ああ、ついに春待つ人となりにけり霞のなかの見えざるものよ

 

春霞家路はとおく蒲公英の踏みしだかれて風もながれず

 

春からは向日性の服をだし曲馬団より先を歩めり

 

木蓮とともに開かぬ春の戸を悲しかなしと開けていたるよ

 

菜種梅雨明けて青空もういちど春から始まる暦を編んで

 

目の前に器用に組まれた脚のあり眠たき女は楽譜を閉じる

 

春眠の背中重たき車内にてまどろみゆくは遠い日々なり

 

歌わずに春を過ぐ鳥それぞれの理由をもちて向きのさまざま

 

カタコトの鳥語を話し野をゆけば何とかなると思えてくるの

 

 

梔子の自傷してゆく白を過ぐケルンコンサ―トを聴きながら