死んだ男
月光51号(2017/6/24発行)
朝まだ来、五時五十五分まくらを濡らしわれは寝ており
六時半起床のベルを止めし朝きみはこの世にあらざりし漢
防御創空裂くために生まれこし花ではあらず冬薔薇の赤
柊の青を語れば手のひらの小さき秘密明かさねばならず
突然に引かれし幕の間へと手向けられたる両切り平和 平和:ピース
平穏な暮らしであったか闘いと悔恨交互に酌み交わしつつ
千年を思って歌えカナリアは捨て去るべきとニュースが告げる
白鳥のうた流れくるきみ逝きしカウンターに打っ臥せっておる
忘れられ一人前のアル中と言われし日々も消えゆく日々よ
もうすでに褪せてゆきたる赤信号死に化粧のごと雪は降りたり
酒飲めば世界は永久に暮れきらずたれとも和解せぬ決意なり
あらくれの男は逝けり旅たちを歌う少年肌やわらかし
ワンカップビールピーナッツ献花あり轢き逃げされしは歳ちかき男
六十三歳アルバイト夜明けまえいずこへ向かう道の途中か
*2017年1月7日午前5時50分ごろ、日ごろ利用するスーパー前の歩道で、近くに住む男性が倒れているのが見つかり搬送先の病院で死亡した。朝、現場検証に出くわす。ひき逃げで、後日24歳の青年が自首した。