夢は夜にひらいて

月光55号(2018/5/31発行) 

 

 

寒空の星を盗もう崩れつつ仰向けに建つ丘の住宅

 

世代ごと地滑り起こすニュータウンされどあなたのめざす北辰

 

迷路だった行方不明になるぼくと四角に折れる道のそれぞれ

 

表札を眺めることが好きだった地上を離れたあなたの姓も

 

少しだけ開いたきみのくちびるの切り傷ひとつぼくは欲しくて

 

街路樹が高いのですよこの町はいくつも並ぶ空蝉たちよ

 

冬に鳴る空蝉の笛あしたから静かにたたくキーボードの指

 

「夜がまたくる」分かっていたことでしょうそしてまた言い逃れできずに

 

夜をピンで貼れたらねえそこからは忍び込まない夢の続きが

 

カラスの眼がぼくを見ている気がするのダークマターのあまねく満ちて

 

帰り道ジジジと唸る街灯と両肩に降る今日の敗北

 

頭蓋にてきみに届けと引く線の最短距離をマップは示さず

 

真冬には迷子となりてひるがえすコートの裾に夜が貼りつく

 

舞い上がる埃も声のささやきも静まり夢は夜にひらいて