十四首

口惜しく襟をたてをり冬空に消へゆくのみのわれの喫煙



暮れてゆく冬日のなかの物語たれもヒーローヒロインならず



あきらめの後に咲きたる水仙の小さき明りわれも灯さむ



厳寒の野外喫煙コーナーに日本ペンギン寄りそひをりぬ



月までを歩いてゆかむきみといふわれに寄りそふ言葉たよりに



ひるがへりまたひるがへる群れツグミあの世この世をわれに見せつつ



喪にふくす家のあるらし如月のいと疾く梅のこぼれゆきたり



わが遺影えらびをる午後かをりたつバラの紅茶をきみはいれたり



欲望の器となりし幾年をすくひたまへよ南無阿弥陀仏



名画座のともしび絶えて待ち合はす恋人たちのTSUTAYAまばゆき



西日射す五十余年をさかのぼり母の干しにしシャツかわきゆく



あの雲はいつか見し雲亡き人の揺るがずにをり十三回忌



茶舗の香のただよひきたる寺町の母の命日など思ひだしをり



どことなく弛緩してをり終業のサイレン鳴りしのちのクレーン