十七首
オリオンのひくき扉をたたきゐしわれの少年消へてゆきにき
公園の日だまりとほき約束の地にむかひたる冬の黄立羽
回文のはがきがとどく雨の日にスキスキスから滲んでゐたり
われ逝ける朝さむければつひにふり雪にまみれるさざんか添へよ
たまさかにさき逝くきみを見おくれり雨に濡れをる理由をもたず
五十代両手でたりぬ逝く友の幸と不幸を分かつものなく
読経も讃美歌もなく逝くだらうわれも乗りなむきみはこびし舟
今はむかし絵本のごとき愛憎の愛のほどよくたれを憎みき
利き腕はきみを抱きをり七年の逢ふ魔がどきさへ盃をもたざり
前略の先へ進めぬ夜ながく楷書でしるす草草の文字
明日こそと決意するものなにもなく蜜柑をむきつ髪かわきゆく
星々は呼びあひをりぬわれもまた命でこたふ道の途中に
何ひとつ望むことなど浮かばずに両手で持てる白湯のぬくもり
決意とはしたがひくるもの繰りかへす夕餉のなかに笑みあるばかり
かわきゆく綿のシャツ揺れいたづらな冬の風さへ陽射しのなかに
冬キャベツ玉ネギきざむ夕暮れのいちにちすべて煮込まれゆけり
「どうしてる?」余命つげられし君からの余命を知らすメールがとどく