半年歌

水無月のにほひは青し手さぐりの言葉の杖をついて歩めり



ひと雨に花となりゆく六月の杳き眼をしたわれのそれから



くちなしは赦し請ふやう移ろへり真白きことのせゐならなくに



赦されたいただそれだけの一日を終へて咲き たる待宵草は



試されてゐたかもしれぬ 一日の終はりに咲けるサボテンの花



中天へサイレンひびく八月の咽喉に刺さりし骨のありたり



臆病なをとこでゐたし八月の空よりあをく迫りくるもの



あをさゆゑ懸けまちがへしか八月のおはりに聴こゆ 「浜辺の歌」 が



もう恋に恋することもなかりけりさるすべり降る道をすぐ



もうわれはどこのだれでもいいやうな空のあをさよ雲のしろさよ



たれのため真白き靴をおろししか光みちたる日照雨ふりけり



あいまいな相ひ槌うてばいつせいに虫の音の止み雨ふりはじむ




題詠「道」

選ばざる道もありけり秋天のあきつあかねの向きのそれぞれ



題詠「くらげ」

諦めにほどよく似あふ酢くらげに箸をのばせば一つ落としぬ



題詠「湖」

初夏の青を問ふため湖にむかひて椅子をひとつ置きたり



題詠「コマネチ」

誰しもが攫はれさうな幼さの終はりにうたふコマネチの歌



題詠「館」

閉館の書架にねむれるひと夏の貸し出し記録の蜜月おもふ