挽歌二十八首

弔ひの日々となりける弟月の升を消しゆく手帳小さき



死よりなほ選ぶものありえんえんと公孫樹並木の冬降りやまず



夕暮れに墨のながれき供物たる星座いでけり死者の数だけ



空ひくく枝をかさねるさくら木のたれもすくへぬ冬の手のひら



やはらかな光りつつめよかの街で眠りし人の褥となりて



あるがまま梢は空を分かちをりポケットに残りしチョコの半分



ぬばたまの黒衣のわかれ約束の小指の骨をもらつていくよ



ミルフイユひとさじすくふきみ逝きし空の青にも層のあるらし



あざ笑ふバーバーポール見つめゐつ別れを告げに角を曲がりぬ



もうすでに弔ひ終へて帰りゆく笑へる声とすれ違ひたり



終着の遺影でさへも色あせる時の流れのひとしき彼方



さやうなら忌中の紙に陽のあたり懐かしきものに変はりはじめり



きみの見し水沼の底へ下りゆき指を濡らして別れてきたり            水沼:みぬま



くちびるの少し開きて無念だと言ひたき顔に布をもどしぬ



別れぎは目見を閉ざしてびしよ濡れに泣きしはいつもひとりの挽歌        目見:まみ



金曜日電話で知りしきみの死に送り辺のごと生ごみを捨つ



死は隣りきみはいづくの天空のオリオン仰ぎ息をのみしか



静かなる男だつたよ赤ら顔で少しどもつてワインを飲んで



生きてこそひけらかせたのにもう本の数行にすぎぬワインの知識



残されし子供はゲームで遊びをり明日をしらぬ白い花の香            明日:あした



ひとり逝ききみが着きしは水の駅そこから還るいのちの方へ



歩むたび重くなりゆく夕暮れを背から降ろして夜にまぎれぬ



夢に見しきみは最後の夜回りの路地からあらはれ路地に消えゆき



たれひとり意志を継がない君の死の悲しと言ふはたやすき別れ



たばこ屋を曲がればきみの家ありきそれだけ覚え永久がきたりぬ         永久:とわ



LEDネオンふる街ひややかにきみ見送りしわれも冷たき



グーグルで君をさがせば肩よせる星雲ばかり見てをりし午後



怪我をした小指のうづき昨日までなくせしものの何にたとへん