二十首

訊ふやうに雨ふりしきるけふひと日黙秘でこたふわれの告解



口惜しき一つひとつを埋葬すオリオン果つる野辺もありなむ



きみを二度殺してしまひ情けなし呪われさめる珈琲にがし



水のなき井戸へと下ろす釣る瓶もて旨さうに飲むいつはりつ飲む



共同のニュースの流る部屋で聞く立松氏死去冬の雷                  雷:いかづち



ひた黙し過ぎゆくわれは如月の芽吹きの音に畏れをいだき



母危篤の連絡は来ず旧き朋われらのためにパスタ茹でゐる



如月の風は弔ひ口つぐみわれみずからを点景となし



わがやまひ二月の雨をしゆんしゆんと沸かしをりけり長く息はく



最果ては直身にありて届かざり血のにじむほど爪の食ひ込む



星たちは生まれては消えわが胸はセロとなりなむ宇宙の旋律             宇宙:そら



下り坂日々の機微みなひきつれて夜の霞にまぎれてしまふ



暖かき冬の一日ずれてゆきはらわた抱え人を保ちぬ



先ほどの言葉を満たすしあはせをわれは持たざり春の辻占



ふと君と手をつなぎけり夕暮れに魅入られ歩く入水のごとく



昼下がりパン屋の前で立ち止まりささいな罪に思ひめぐらせ



如月にこぼれる梅のひとひらを黒猫まとひ墓陵に消えぬ



つぐなひは奢りとなりきゆく道に沿ふて静けし喇叭水仙



木が倒るいつかどこかの空のした黙しうつむくわれに向かひて



両肩に日々は降りつみわがコート声を殺して垂れ下がりをり