十五首
耳もとへ風のささやく初春のここよりくだる玄き階梯 玄き:くろき
しまらくは籠れる日々に鳥 一羽まよひ来ぬ さてどうしたものか
オブラートにがき薬をつつみつつ冬の陽に透くわれの指さき
尉鶲群れなすをやめさへづればわれの知らざるチベットの風 尉鶲:じょうびたき
噴水をいつとき眺むああ空へ突き上げられて落ちくる刹那
うつろひに何もたくさぬ決意して帰りみちにはもう泣いてゐる
朔風に背中おされてこれまでのわれを捨てむと橋をわたりぬ
ドナドナをひとり歌へる昼下がり感傷さへもすべて売りもの
いまいちどわれは楷書で歌を詠みまだ見ぬ朋へこころ雪がむ
暮れ終へしけふいち日はいちまいの皮膚とチクチク問答しをり
そしてわれいずこへ逃げるけふといふ没日はすでに祈りより疾し 没日:いりひ
西日うけドミノのごとくわが街は影に圧されて崩れゆきたり
冷蔵庫ゆくりゆくりと生ものの過去へと向かふ寝息たてをり 生もの:なまもの
ひとしきり雨降りつづき白湯を飲む何を弔ふ睦月尽日