夜が明けたら 浅川マキ追悼歌十五首
幕間だらう道化師ひとり現れて訃報をつげる第二幕とは
紅き薔薇咲かせてねむる港町五丁目二番地宛名は知らず
過去からの陽ばかりなじむ朝日楼きしむ階段おにさんこちら
夕暮れの天動説は悲しかり丘より望む同じふるさと
少年は悲しからずや口笛を風に運ばれ花いちもんめ
帰らざる赤い橋ならふり向かずムンクの黒い影法師はも
呪詛のごと夜が明けたらをくり返す酒飲み終へぬ日々のありにき
悔恨の始発電車に乗りしかばあはうみいだく雪原に立つ
持てあます暮らし捨てけむ旅といふ仕事終へたる墓掘り人夫
人生の甘くなければ濁流へわれをいざなへ古きコートよ
問はれればわれは酒場の泣き男わかれの川を蒼ざめわたる
答へてよつれないそぶりのマヌカンは黒いドレスでわれを見おろし
ポケットに入れたきほどのしあはせと貧乏ゆすりのわれのブギウギ
こんな風に過ぎてゆくのだ日の暮れに引き算で数ふ脈もありたり
母恋し泣いて叫んだ子は今幾つ閉じられしままわれの裏窓