二十五首
望郷に雲食むキリンの影ながく檻の格子を抜けてゆきたり
正夢を食らわんとする夢を見るわれの腐臭を罠として夜
ときおりは夢のはらわた思いをり微熱のだるく持てあましつつ
物憂さと背中合わせに読む本の余白をおそれすこし角折る
どこへゆくどこへもゆかぬ風が問ひ樹々がこたへてわれは運ばれ
手のひらで体温はかれば今宵きみ月の額に影のかかりて
寒椿言葉にすればまた斬首斬首の道を早足で過ぐ
朝霧に佇みをれば足元に行方知れずの立ち位置のあり
祈るため両手はあらず冬の夜に君をだかんと解いてゐたり
あかねさす吉凶うらなふリトマス紙あをあか酸へ朽ちゆく夕べ
ひたぶるに汲めど汲めどもあふれ出づ水瓶のあり北斗七星
風に立つ梢の音のさびしくていまだ残れるたれの早贄
しゆんしゆんとやかんは鳴けり何つくるあてなくひとり白湯のむ夜を
鶏頭は群れずに咲きぬ北風にひとり向きあひ惜別とする
さやうなら鶏頭いつぽん抱きをれば口惜しき日々燎原となる
耽溺の日々の柩よ みずからを弔ふ朝の花に露あり
オリオンの低き明滅冬さらに鋭利であれと夜を研ぎをり
ハンガーに吊るされたまま反省すわがジャケットの皺ふかくあり
最初からそこにゐのか十六夜は目深にかぶる鍔先のさき
夕暮れは左様であるならさよならと沈んでゆけり吾捨て山へ
いさかいしふて寝ののちに吸う煙草かくまで苦く曇天の窓
悔恨のこつんと落ちる夕暮れに蹴りつつ帰る小石もあらず
ドアの鍵カチリ自責の音のする奈落に寝てをりしかば 屍
寂寞と風の声明木霊する時計壊れし公園広場