十五首





身代りになれぬ悲しみ嗚呼と云ひ寝ころびをれば鰯雲ゆく




捥ぎ取りし風のひと房ひょうひょうと放下のごとく指を過ぎゆく




なくすものひとつ残らずうしなひし赤裸裸にまとふ風のスカーフ




ピアニシモ十月の雨は立ち枯れし紫陽花弾ちて眠たかりしを




木漏れ日にまみれし思いなにならん千切れ途切れて斑猫のゆく




夜の香の肺腑に重き切なさよゆきてかへれぬルソーの森よ




流れこし歌のひとこと「なにもかも」切なく残りいち日が過ぐ




夜ふかくおしろい花の香の満ちて団地の明かり性愛を持つ




朝まだき街灯ほのか人がたのチョークに五体投じてをりぬ




立ち枯れの紫陽花の色わが胸の矜持となして挽歌贈らむ




人でなし酔うて過ぎにし日の底ひいまだきらめき見えし澱はも




ゆくだらう人恋うことも捨つるのもかなはぬ夜が寄せるみぎわへ




ぽつねんと枇杷の葉かげにとまりゐる夏のぬけがら風の吹き込む




あやとりの川とりきれぬ夕まぐれ酔うてさうらふドックオブザベイ




決意など持たぬが花の酔芙蓉ゆふべに死して風の鎮魂