晩秋印象派

一日は黄葉紅葉散りゆくを別れた人の泰然とあり



ガス灯をともして回る夢をみるよもつひらさかいついつ出会う



慰めでなければいいの心から悼んでいるか分からなくなって



痛みには名前がほしい角砂糖溶けゆくまでの曖昧に耐え



寒雷がずっと鳴っている鳩尾のあたりに触れるきみの手のひら



日曜のユンボはひとり鋼鉄の疑問のままにふかく眠れり



ひよどりの呼び合う歌を知りたれば問いも答えも消えてしまいぬ



ビルケナウわが心臓を通過する夜行貨物の眠ることなし



投げだした裸のままのわが腕を半島として海よ眠れよ



秋とはいえ暮れにいたらぬそのはざま降り始めたる最初の一葉         一葉:ひとは



颯爽とウッドベースを押しゆける公孫樹並木の黒髪の女            女:ひと



一陣の風となりたる旋律の運ばれゆきてやがて狂えり



空たかく枝を離るる音のするさよならだけが降り注ぎたり



たそがれにあの世この世がキスをするなくした両手に抱きしめられて 



手を紙で切りたる夜のかたむきてああやっぱりと冬に入りぬ