十一首
もたれあひ二人でたふる日のありし群れ咲く花にそれぞれの夏
死んだ蝉ころがるばかりパラソルにぽとりぽとりと通り雨ふる
仰向けにころがる蝉の腹の洞かげりゆく陽になにをうしなふ
夜の蝉ジジと鳴けばみづからを騙してきたるおのれに会ひぬ
振り返らぬ道もありたりまつすぐに影ののびれば何を背にする
ノンアルコールビール飲む夢 いまさらに気づきたりける内なる渇き
あしたには蝉のこゑ降るゆふべにはそこらころがり晩夏にはひる
和紙のごと漉かれてゆきしわが無念とけぬ思ひを経と緯として
たましひの値ぶみはせぬぞ泥のごと酔ひたるわれの朱夏は過ぎにき
行くとふは譲りあひにて単線の会釈かはせばひとりとなりぬ