2010-09-05から1日間の記事一覧

「月鞠」八号 どろの舟 十首

人波に逆らひ歩く夕まぐれ落ちゆくまでの止まり木ひとつ 漕ぎだすは標なき海どろ舟のどろの櫂もてどろの舵とれ 酩酊のわが足取りはつひぞ消え行方不明の夜となりたり 誘蛾灯指名手配のわれなればここにゐるよと火だるまでをり 甘えてはうらみつらみの懐手夜…

「月鞠」七号 甘夏 十首

棟を去りびしよびしよと食む甘夏の指すくよかに祝祭となる 病棟は山あひふかく薄暮にはアケビの裂ける音のひびけり いづくにか霊安室のあると聞くこころあつかふ棟の中にも 亡霊の足あとばかりそこかしこ月さえざえと廊下を濡らし 深夜聴くラジオの調べに全…

十一首

青空に雲ひとつなき嘘くささイエスよりブッダの濁点おもふ もたれあひ二人でたふる日のありし群れ咲く花にそれぞれの夏 死んだ蝉ころがるばかりパラソルにぽとりぽとりと通り雨ふる 仰向けにころがる蝉の腹の洞かげりゆく陽になにをうしなふ 夜の蝉ジジと鳴…