くちなし
夕昏れに問えばさびしきくちなしはその香の果ての腐乱の歌か
くちなしを髪に飾りてレディデイ夜の香おもく奇妙な果実
夜風よためらわず吹け無残にも暴かれてをり昼のくちなし
くちなしのりぼんをむすぶゆうれいの香りまよえば犬の遠声
くちなしのその真白きにたちどまり家うしないし夜の三叉路
恍惚はその香を夜にともしいて今まさに腐りはじめるくちなしの白
その路地に黒猫のをりくちなしの落下待ちわび 夜 食まんとす
くちなしの夜に死する人あり斎場におびただしきもの産卵されて
今夜また死人にくちなしよく似合い喪服おんなのうなじが堕ちる
水無月の雨にうたれて花の堕つそのくちなしの意志の錘よ
かみさまが洟水かんでポイと捨つ愛でて疎んでくちなしの候