十八首
サブリミナル効果のごと夕 やけに向かひて人は「 実 は 」と言へり
胸に手を当てれば脈のかさこそと枯れ葉いちまいおちてゆきたり
十年ののちを思へば十年の歳月ありや日は暮れゆけり
きのふへの夜へともどる階梯に腰をかけをるわれに会ひたり
雲よりも低くいきかふ飛行機の偶数ありて終末のごと
そちらにも桜の名所はありますか泉下のきみと盃をいづれは
黴くさく傷のこするるレコードは愛の賛歌といふ名を持ちき
窓辺には水栽培のヒヤシンスたれより先に知らせるために
これからを黙してゆかむ覚悟なくしぐさのやうに雪はふりけり
みじか夜に浮かべし舟のゆくさきを酔ひにまかせて問はずにきたり
雨の上にゆふぐれ来たり悲しみの背骨のごとく鉄塔の立つ
木をはなれ地につくまでの数秒の祈りの坂をわれは下りぬ
背中から一枚はがれまたはがれ言ひがたきことのかくも多かり
右脚のしびれたる日のおしまひに黄色い花と苺をもとむ
ゆふぐれに触るると落つる木蓮の燭台ひとつ灯してゆきぬ
軒したに鳥籠ひとつつるされて四月の風にひゆううと鳴けり
いづくまで添ふてくるのか忘却はかなはずとも花ちらしの雨
驟雨さり虹のかかれる港からきみへと帰るわれの舟みゆ