十八首
ひとつしか星見あたらずかりそめの命乞ふごと祈りをりたり
晩秋になにを惜しめり往くものは去るにはあらず鶏頭の紅
誰そ彼の墓苑のごとき高層の窓辺に人は喪服で立てり
手品師の鳩になりたき日々のあり風切り羽のなき日でありき
柿ひとつ卓のま中にゆふばえの光りはずませオルゴールとなる
しめやかな雨ふりやまず蟋蟀は土へと還る お茶の時間だ
「攻めなさい」思ひもかけぬ言葉なりいづくにありやわが前線は
霜月の流れのはやき雲のゆく二度とまみえぬ祈りありけり
街灯の明滅のあり霜月のパラパラ漫画の人のゆきかふ
危うひねパラパラ漫画のわたしたち口づけしてもすぐに離れて
死といふは歌を忘れたカナリアをひとしく濡らす雨の酷薄
いつせいに方位磁石の北を指し肩をよせあふ冬の仕度す
紅い葉のこれは桜の夕ぐれか惜しむ惜しまぬ道を分け入る
ざくざくと踏みしだきたる悔恨のかさぶた剥ぐやう紅き葉の降る
垂れさがりときにはためく国旗といふやんごとのなき布切れあまた
はだけたる胸にて受くる月光に静脈しんと凍てつきはじむ
枯れ葉ちる音のかそけしわれを呼ぶ木霊となりぬるきみのこゑあり
黄砂ふるビルの谷間に立ちつくす人体模型に流る血もあり