二十一首
虫の音は言ひわけのごとかそけきに明日のため書く日記を持たず
諾々と認めたる嘘うつむけばこんなに重いものか頭は 頭:かうべ
堕ちてくる鳥をおもへば蒼穹は死にゆくまでのあをの高みぞ
さびしきは鳥を飼ふひと口真似をまた口真似て布をかぶせり
秋の日とふに問ひつめるがごと空ひくく答へをまたず来る雨のあり
むせかへる生きてあれよと木犀の夜のとばりにそのすがたなく
ゆふぞらに浮かぶ駅あり音もなく来たる列車のゆくさき知らず
枯れてなほゆれてをりたるコスモスの世界のほんの片隅のこと
デジタルの計器の止まり霜天に逝きたる母は二進法を知らず
午睡から目覚めればまたはつかなる傷つけあひし血の味のする
霜晴れのピラカンサスの赤あかし弁明ならばひと言でせよ