二十三首
師走なり骨を鳴らして膝たたき「さあて」と立てば継ぎ目なき空
どうどうと夢の中ゆく牛のゐて賢者の草を反芻しをり
雪虫のひとつふたつと告げにくる母の逝きたる日の近づくを
冬の夜の立たされ坊主はらはらと屑となりたる星の降りしく
遠くまで流れる舟を思ひをりためらひにぎる舫ほどかず
冬といふねむりの季節に描きたるひと筆がきの星の悲しき 季節:とき
消えゆくはためらひ傷のほそき月ゆずを浮かべた風呂につかりぬ
街の灯よ幾千万の夜を呑み傷つき肩を抱きあふ人よ
明日もまたここにかうしてゐるための問ひかもしれぬこの夕やけは
天秤に載せたる悔いと千歳の言ひわけのあり白き受け皿
持ち重りする歳の暮れ乳鉢に言葉まじはり毒となりたり
ひひらぎの棘をかざりて今日ひと日まもられながらまもるものあり
ガラスには凍てつく男映りけりテロリスト過ぐ回転ドアの風
ああわれは風つよき日に襟を立て無念の中を歩いてをるよ
水仙を待ちたる暮れのベランダにきみへとつづく岬おもへり
スイッチこの非情なるもの薄墨のひろがる空へわれは堕ちゆく
物ねむり宙を過ぎゆく時は舟われのと胸にさざ波のこし 宙:そら
月の降る冬にまよへば朽ちかけの椅子ひとつあり人を待ちをり