二十四首


カフェテラス華やかなりて携帯の通信兵は長き足組む



北風の強き日なれば敗走の日々を抱へつ地下へおりゆく



ゆふざれば休戦となり白兵をゆるりとおさむわれの喫煙



寒々と人は群れたり霜月の風にそよげるネオン樹の森



冬空へ白くのぼれる溜め息に名前をつけて見送りにけり



たちまちに日々は傷みて明り消す厨に残る明日の生ごみ



漂白を終へし俎板うそくさく柿ひとつ置きゆふぐれとなる



皿あらふ水つめたかりいくつかの反古せしことなど思ひだしをり



徒手空拳 雨の坂道ながれゆく落ち葉の明日になにを託さむ



鶏のこゑひびきしずまり青空にあとに戻れぬ紅さしはじむ                鶏:とり



さめざめと星よかがやけはだか木のこずゑの先の祈りおもへば



思ひ出を持ちすぎたればそこかしこ散りゆく葉にも名前を見をり



寝ころべば空のさざ波かがやいて舶来といふ死語を思へり



静寂の浸みゆく先のその向かうたまごをひとつ夜に立てなむ



骰子に七の目ありや酔ひ痴れていのち懸けたる夜もありにき



酔ひ痴れて崩れゆきたるたましひをつなぎとめにし歌のありけり



手のひらに甘栗ひとつ転がしつバンクーバーまで生きてるかしら



干からびた蚯蚓二匹をまたぎをりその歩幅だけの生をいそぎぬ



くれなゐの頬よせあへる桜へと採血終へしわれをはこびぬ



曇天のこずゑはすでに葉をおとし放電してゆく冬の矩形へ



窓ガラス完膚無きまで磨かれて夜のいちまい部屋に浸み入る



クリスマスこんなに重い夕暮れを背負ふて灯る土砂降りの星



ようようとなしをへしこと数へれば片手で足りるささやかな夕べ



霜月のあさがほ蔓に意志もなし月と如雨露の水の澄みけり