二十一首
風が名を与へたまひしコスモスの一輪のみを見つめてゐたり
意志持つは終はりを告げる夕暮れの朱よりいずる緋の曼珠沙華 朱:あか
言葉さへ置き去りのまま引き潮の流れは速く海の遠のく
繰り言はかき消されたり西日射すプラットホームに快速の過ぐ
亡き者の何と重たき夕暮れか遊具ひたすらたれかを待ちぬ
風はこぶ枯れ葉いちまいシーソーのぐらりと傾ぐ欠落のあり
たれのためかうべを垂れるひまはりか黙礼ささげ夏を終へたり
会ふたびに「これでおしまひ」と言ひし君 今夜わたしは秋服を出すよ
こほろぎに誘はれしまま三叉路を祈りつ行けばなだらかな坂
あさがほの花にさまよふ蟻のゐてメビウスの輪は炎天に閉じ
近しげに鮒のいつぴき腹を見せ舳先に当たり流れゆきたり
あるがまま受け入れがたき朝の陽に濃くなりはじむあさがほの青
手を合はす 西日に映える鶏頭へ通りすがりのさるまねひとつ
思ひ出に飼ひならしたる野生持ち薄暮ののちの厩舎すぎゆく 厩舎:うまや
夏は逝き朱の色も褪せ骨のごと死に装束の彼岸花が立つ
唐突に君さり逝きし空たかくこずゑふるはす風の手話あり
西日射しどこへ向かふか問ふてをり部屋に積もれる塵と一緒に
コスモスのどうとさわげばこれまでのこだはりあづけ風の道ゆく
溜め息を聞かせておくれ彼岸花死人見おくる香りなければ 死人:しびと
夕闇がせまればともる灯の下でひまはりの影のまねをしてをり 灯:ひ
秋雨にけぶるあぢさゐ君逝きし日より立ち枯れ「在る」ものとなり