十五首
さうすぐに素直になれず礼節に頼れば届くトロイの木馬
萌えいづるその息づまる香のなかに笑まふ猫をりシッと追ひ払ふ
汝の肩はたをやかなりし靉靆と異形の花のわき上がりけり
路地裏の月の廊下を往きをれば立たされ坊主の桜に会へり
甘夏の指の先から染まりゆくけふに至れる病のありし
朝顔の青を思へば涼やかな首肯をうけむ夏に向かひて
花はちりいつものやうな朝になり白地図すでに春の色もつ
沈む日に手のひら透かし眼を瞑るぼくらはみんな生きてゐるといふ
休日の踏切に立つ春なれば過ぎさる風に答辞を返し
葉ざくらの影あわあわと打ちよせて明滅いそぐ春の漏電
遠 雷 ここまでおいでと目隠しの鬼の背中に咲くはなみずき
まなこ閉じ明日は嵐といふ夜に祈りつおらぶキース聴きをり
外灯のいつぽん点り公園は要と不要に分かたれてをり
風雨すぎ空どんよりと麺棒で延ばされてをり冷静でゐる
描かれし丸ひとつあり空の空つばめ飛び去り出られずにゐる