十七首


手の椀に言葉をうけるありがたく口にはこべば芽吹く紫陽花



差し出した手にのせられし生肝に耐へかねてをり身のほど知らず



頑なで居心地わろきわれなれば物の怪さへも暇を請へり



啓蟄の回送電車のがらんどう窓に映れるわれの水仙



こつちだよ囁く声のゆくゆくは春の刹那を散らす風なり



幾重にも仕舞し時を紙魚が食ふぼろんと毀る虫干しの春




菜の花へさわぐ思ひへ手をあてる別れの兆しかもしれず 群れ



雨の夜わたしはわたしと二人づれ一人は濡れて一人は歌を



合掌し芽吹く木蓮三月の性善説を捨てがたくをり



三月のリボンをほどく風が吹くスニーカーインのソックスはけば




ゆきずりの怒りチロリン風はこぶ春の鈴音とどこかへ去りぬ



やさしさと春に言ふなら手をよごし首は洗つて桜を待てり



何ごとか思ひ出せない夜の隅れんぎようの黄照らされてあり      黄:きい



迷ひ道たれの灯せるれんぎようか黄のぬくもりは標となりて



風媒のゆくへしれずわが想ひ芽吹きの季節に色も問へざり



かたくなに黙しつづけし倦怠の枇杷の葉芽吹き反旗をかかぐ



心地よく裏切るものに加護あれし枇杷の芽天へ楔を打てり       天:そら