十五首
これからを思ふことなくほどきゆく指さきにある空のあやふさ
外に出ずなにごともなし餞と喪と言ひきかせ床をみがきぬ
人恋へばレンズをみがく真夜ひとり楕円軌道はもつとも遠く
まいにちを惜しんでゐるか残照の問ひかけの過ぎ街の灯ともる
遠くまで行くための足そろへをりあすにとまどひ暮れなづむ空
ほうほうと啼く声がする夜更けまでないものねだりくり返しをれば
身をよぢりふた葉のふたつならび出で言葉をもたぬしあはせ想ふ
しまらくはこのままゐようささやきがきこえてしまふ夜は傷めり
哀悼を奏でる術のなにもなし日暮れがつれてそれはやつてくる
雨が降るいつくしみを超えなほも降り退路なき海といふ鎮魂
みづからといふ独り 真夜中の西洋あさがほ根をはりはじむ
街中に季節を待たぬくちなしの白のゆきかひ風は薫らず
なしをへしささいなことの二つ三つ半熟たまご皿に添へたり
辺境に今はゐるらしこの夜のキース・ジャレット人に知らゆな
花をへてそらつちうみへかへる身につき添ふてをりヘブンリー・ブルー