未整理だった短歌




車窓から朝は初日となる夕日なにも惑わず願うことなく

朝:あす



術もなく緩解のみと言い放つ医師の白衣に釦ゆれをり



立ったまま運ばれて行く通勤電車「労働は自由」のゲートまで



曇りどめ静かに塗りて銀河系近くに見ゆる眼鏡となりぬ



他人さまが見ているように見えるらし老眼鏡をあつらえに行く

他人:ひと



松虫の殉教あるらし蜘蛛の巣に十字にひらくさみどりの翅



朝露にきらめく死骸連鎖して虫という虫食われつ経読む



秋風をふいと纏いて口笛は吾という名の民族音楽



みずからの浮力と憂鬱アドバルン役目を終えてもつながれてをり



献体のリボンをほどく冬の指ニベアの青とささくれの赤



脳髄の記憶は湿り羊歯のごといち日ひっそり光合成する



みずからを風景とせむ冬の朝ラジオ体操第一ながす



華やかにジーパンデニムジーンズと堕落してゆき敵見あたらず



吾が肩をするりと抜ける指先は「L小さいかしら」とぬくもりを



酔い果ての山茶山茶花どちらとも分らぬやふな冬曲がり角
山茶山茶花:つばきさざんか



聖ばかり歌われてをり賛美歌を閉じて表紙に檸檬を置きぬ



冬空へ塔は孤高を守りゐてシシュポスの水しずかに眠る



過ぎてなほ架線は揺れて遠き日に火花を散らすパンタグラフ



火炎瓶紅蓮燎原今首都は燃えているかと亡霊たちは



薄情な君はハートに火をつけてバスタブひとつ看取り人にし



ただ積もる悲しみもあれ雪の無垢たれか忘れし玩具よこたふ



飛行機は羽ばたかぬものと知りながらその不気味に耐へゐて夕暮れ