2007-01-01から1年間の記事一覧
硝子の眼何を観てると風の問ふ伽藍の中の紅く散る花
薫風に樹樹点描に揺らめいて我の思念も光の中へ
我といふ役降りがたし幻のエンドロールを背に受けながら
頬杖の先にあるものくゆらせて我が暗澹は虚空に転ず いちにちを生きて美とせむ朝の水蛇口といふ不吉を捻り 空の空果てあることの悲しみを舞うことでしか蝶は語らぬ
石の音を凪ぐ海沿ひに置いてゆく水平線は弦のごと張り
夜泳ぐ魚となりて湖面までケルンの月に昇つていきたし 風渡るケルンの月は揺らぎをり青の湖面のその底の青 陽はひかり月はあかりと知りたるか夜の魚は慈愛を浴びぬ 天上の湖面の月は繭にして夜の魚は悲喜を紡ぎぬ 浮き袋青く灯して夜の魚静の海に産卵を終え …
追悼のト書き捨て去り立ち尽くす献花となりて舞台暗転
恋歌を恋するすべなく口ずさむ金魚売りの昼はなやかなり
岸辺にはペツトボトルの揺らめいて水が恋ひしと啼く魚に似たり
待ち合ひに命を拾ふぼろぼろの診察券の貼られてゐたり
恋歌は海を渡りて一枚の画布のごと我を包みて画布 : カンバス 半島に立ちて切なく満ちるもの掌すくふ言葉はありや 裏切りも歌となるまで抱ひてをり声をたつきに海鳥はあり
ゆくゆくは墓碑銘ならむ我の名をパンに刻みし月降る夜は 定席の隣にいつも鳩がゐて公園の椅子空と向き合ふ ころころと転がつてゆくをかし気な思ひがあつて坂と知りたり
解き放つ悲しみもあれステージの裸足のパティ原人のごと グロリア!と囁き叫ぶ昼下がりパティは汚れて聖獣じみて 目を隠しダーマト赤く一瞬に日暮れて詩は読み上げられむ詩 = うた 永遠の二重写しの肖像のパティ忽然と歌になりたり
脳髄に50億年の記憶あり羊歯のごと一日ひつそりする
諭すとき面持ち歪み尻痒し鏡に映る苔むす白舌
われわれと言ひへず我は風を待つ一斉の桜ひとひらのみ散る
ポリバケツ洗はば水色冴ゆるまでりんご売り赤狂ふまでに白衣
夜桜の下を流れる暗渠にもひとひら逝きてオオハンザキ動く ホームレス吹きたるハモニカ転調し「私によく似合う靴」探しをり
この風とこのはなびらとこの思ひはらはらといふ言葉があつて
もくれんの浄土かなわずさくらさくうたげの園に悪意抱く午後 ゆきやなぎ雪崩れてゆきて午後悲し露光オーバーの春を生きたり うとうとと水琴窟に落ちてゆく真白き部屋の点滴の午後 陽光の不安の中をさまよえば蚊柱の輪にふふと分け入る
目覚めればすべての夢は性的と君は言いつつ口紅を塗る フロイトの夢判断の遣る瀬なし空飛ぶ我も性の俘虜なり
木蓮は陽に向かわず天上へめいめい白く瞑想してをり
DNA 伝え終えれば酔いどれて二重螺旋を転がる夕べ 敗戦のボクサーのごと我は立ち両肩に積もる螺旋の雪 否否、戦いなどはなかったのだ 叱責不問不様に逃げて 逃げ失せることなどできずにキッチンで大根一本一枚に剥く
黎明の飲酒夢にがく目覚めれば陽は天上に饐えてゆく午後 飲酒夢を覚めればひとつワンカップ鉢植えとして窓際に置きぬ
不寛容 奪回すべき聖地には死屍累々と空が積もりて
白煙は山の火葬場たおやかにキャミソールの紐すべりゆきたり
唐突に角を曲がれば消えていく記憶があって直立の既視
ベランダで Tシャツを干す晴天の弥生朔日白旗を上げ
カリエスの父の背中の超えられぬ海溝深く失せし肋骨
昼日中何することなく座りをり持て余しも取り憑かれもせず