九日義父八十四歳で逝く


梅雨入りに義父は逝きたりいづくかに忘れ去られし軍刀ひと振り



紫陽花は見送りもせぬ野辺となり濡れてただ美し葬列のゆく



蕭蕭とかの地も雨のなかにあり果たせずにゐることなど思ふ



酌み交はしうなづきあつたことごとく反古にしたまま梅雨のつばくら



あぜ道のあるじを持たぬ野の花も人ひとり逝きただの野の花



青空にけむりは見えず夜の星また燦然と無数の死のあり



青垣はやがて夜となり天の川死屍累々の星の底ゆく



幸世橋といふバス停のあり待つ者も降りる者もなし通夜の家まで   



いづくより黄昏たるか揺籃に山々ねむりやがて漆黒