これまでの作品

殺される夢見て我は寝返りすただ恐ろしき白き洗面具


切々と死刑求む天動説水金地火木冥王の府       


紫陽花は抒情の中に自刃せり雨風大輪のコロセウム


書き入れよ白昼白地図白昼夢酩酊迷走夢のあとさき


炎天下蟻の群れ群れの沸き上がる観念して回り道をする


蟻踏まぬ日々は過ごせず諦念し誰そ彼までを酒買い求む


何もなく何もなければサボテンに進化の極意を問う午後あり


唐突に涙の理由を数えたるラプラスの悪魔ささやく夕べに


酔い果てて公園のベンチ夕空にドボルザークの「家路」流れて


臓物を人目のつかぬ隧道へ根こそぎ捨てに切符を買う


寝ておれば耳許こうこう血の流る体の暗渠海へと出でず


初夏の陽に蜥蜴は四肢を伸ばしおり虹彩のごと体温を持つ


蒼穹を抱いて飛ぶ鳩家族というマグリットの青あえて騙され


悲しみは他者のゐぬ歌山河にて歌われしゆえ歌われぬ歌


口ずさむワイナンロゼスふと途絶え何を埋められたる向日葵


バリケード エチカ 晩秋と読みやれば酒何ならんかつて心よ


目を閉じて十 (とお) 数えたる逢う魔どき鬼にもなれず闇にもなれず


もういいかい問う鬼なくてまあだだよ まだまだとつぶやいておる朝


失いしすべてこれからゆだねると思いうらはらレコンキスタ


うつむきしひまわりもまた向日葵と見いだし科か片耳を切る


チッとベルを鳴らして夜の蝉が堕つ川田絢音の詩で七日過ぐ


正午時の光りのすべて吸い込みしカラスの黒の真下の漆黒


早朝の盛夏謳歌す蝉の声急ぎ死ぬことなく終戦日                      


玉葱の肌を剥きつつ何もなし無しをむきつつ つつつつ涙


玉葱の肌剥き終わり微塵にし形なきまでいため炒めて


青春に自由という名の黒子いてNONと書かれし朝の黒板


終電車いっせいに傾ぐ吊り革の生真面目重力間抜けな白輪


逃げ水に揺れるカラスの羽根は濡れ武器商人に私はならぬ


頬づえのバーカウンター未明にて夜のかたちに少し凹みぬ


頭上にて花なきみどりゆらめいて冷えた茶を飲む 春は狂えり


何もなし今のみありと寝ころべば柱の傷は縁側で朽ち


毎朝の帰路昨日より秋の陽は1cm遠くから我を射す