追慕に沈むとしても


青空はやがて抱きしむ菜の花をわれに落ちくる恋に理由なく        理由:わけ



抱きしむる勝利もあれどわれはもう頭をたれる漢でありたし        頭:こうべ



窓ガラス一枚割れてその向こう空あることのしあわせ思う



ねえあなたあしたに空が割れるのよ風ふきわたり花そよぎおり



見えるまま絵にする狂気また詠う狂気もあらむ双頭の蛇



ウロボロス 震えているのは何のため血まで流して爪を噛むきみ



天秤の右へ傾きパラフィンに革命ひとつ包まれゆけり



薬包紙ひらく朝をきらめいて溶けてゆきしは累々たる今         朝:あした



未完という花ことばあり明日からは吹きわたるべし風の托卵



夏をゆく猫背のわれよ追憶よ未完のままに湧き立つ雲よ



二つぶの向精神薬ころがせば指の谷間に薄日は差せり



いち日をたった二つぶの錠剤で仕舞いと致すずんだ餅もとむ



水無月の小舟とならむ紫陽花をめぐる追慕に沈むとしても



延命のボートを降りし手の首のIDナンバー羅列となりき