片恋の生、あるいは花


水仙の黄のゆらめきの気ぜわしく、かなにひらきてそらをみたしぬ



マグノリア北をめざして身をよじり祈りの数の名前を持てり



木瓜の花、昼のさなかを耐えぬいて赤く咲くこと選びおりたり



昼下がりクラリネットが満ちゆきてひたすら懈しかげろうの立つ



鎌首をもたげているよ気だるくて殺意でさえもどうでもよくて



見つめれば見つめて返すモンステラわたしのごとき者でよければ



亡き母は敵のなき人いくばくの血をあがないてわれは来たれど



歯をみがく顔をあらうそしてのち砕かれていく頭蓋をもてり



決めかねて買いそびれたる消しゴムの虹の出るたび握りしめる手



一杯の酒あおるため白眼の日々送りたり片恋の生



ぬる燗と蛸の切り身をもうすこし一人ひとりの風の電話よ



誘われて選びたるもの何もなし目のまえの風、目のまえの橋



リビングの観葉植物みどりなす視野狭窄の平和の午後よ



手間いらず水栽培のヒヤシンスわが卓上の来賓となり



東日本大震災に見舞われた、岩手県大槌町の海を望む高台に、電話線がつながっていない電話ボックスがある。それは思いをつなぐ「風の電話」と呼ばれる。