ウサギのような加湿器
放埓を生きしのち君さざんかの散って無惨と言うことはなし
平穏な暮らしであればきみを抱く朝もなかりき水準器を置く
アルコール依存、脊髄増殖性腫瘍と不治の病を二ついただく
玉子かけごはん食べおえ血液400cc捨てにおもむく
火、金とハイドレアカプセル服用せしが母の夢みることもなし
朝まだき蕾のごとく膝を抱きこれからという時間を厭う
早春の梢の先に風がいてわたしを騙すわたしを見てる
この花もあの花々もいっせいに名前を捨てて春野となりぬ
モノクロに時は止まりて容赦なき十年前の笑顔ありけり
なにかしら麻疹のようでもういちど別れるための出会いありなむ
見おさめともう見おさめと過ぐる日の退屈きわまりなき愛しさ
西陽映えテーブルの上に置かれたる水飲み鳥はひたに詫びおり
その入り日うつくしければ「また明日」あなたの指と約束をする
いっせいにPC閉じる音のして森の吐息の深くなりたり
夜明けまえ少し自分を抱きしめるウサギのような加湿器を買う