二十三首
見つめつつ祈りのかたちに手を合はす生命線のすこしずれをり
金木犀くしやみする猫われとまた秋のさなかに身を置くひと り
猫の影われの影などながながと等価となりし西日の中に
群れなさず一本のみのため息も花でありけり緋の曼珠沙華
ときどきは風を伝へるイヤホンのどこまでゆかむ十月の森
いつの間に咲きしか香る木犀のわれの咎などどこで知りたる
花に影かさねてゆれるコスモスの光りは風のなかにありけり
車窓にはみじろぎもせぬ顔のあり夕闇ゆける区間快速
「つよい花よ日々草は」と言ひしきみ雨ふりやまず迎へにゆきぬ
差しこみし夕日をけふの栞としきみの駅まであと二つほど
赤くろきリンゴ剥きをるきみの手にワルツをおどる親指のあり
肌ざむきベランダに立つひいふうみい窓の明りの増へていきたり
山々は海へとせまり海はまた身をひるがへし月を待ちをり
色づける葉から散りゆく順縁のまた新緑の夏をおもへり
枯れ葉ちる坂道をゆくわが膝の痛みも季節の中にありけり
小雨ふるその空までを空とするポプラあふげり其もふりやまず
日の没りのはやくなりけり向かひあふホームに並ぶ人は動かず
こころ急きひと口吸ひし煙草けし終はりにしたき何ごとあらむ
信号のいろ赤くして立ち待ちのわれの背をうつビル風つよし
静かなるをとこであれよ暮れなづむひかりを描く一人であれば
真夜中の水はり終へしバスタブゆ海へつながる波の声せり
いちにちを笑ふてくらすはむづかしき六時のサイレン犬の遠声
カシオペア指でなぞりし遠き日とおなじかたちのなにが悲しき