十三首

長月の朔は雨のなかにあり流さずにゐし涙かぞへり



さやうなら舟はゆきたり九月へと祈り祈ればひぐらしの鳴く



聖九月あをの高みへ舟をだしなにも望まずをりたかりしを



浮き橋を越へてゆきたる長月の移ろふだけのわれも愛さむ



やはらかき九月の森を越へてゆく未完のままのわれの口笛



西陽うけ腕のかがやくいつの日か燃へてしまへるわれを思ひき



キーボード打つ指さきの疼きさへ送られゆけりきみも見る月



いつもきみ最後の歌と思ひをり黒をまとひしアマリアの立つ



サウダージ」辞書をひらけば郷愁に待ちぶせのごと出会ひたりけり



あさがほの九月さやけき空のしたまぶた重たきわれの怠惰よ



何処かでキバナコスモスゆれをるとかたへの風にわれは告げたり            何処:いづく



雨の降りたれかの部屋の咲く花につながりゆける土のにほひす



針穴を通つてきたれる象に乗り宝くじなど並びをりたり                   題詠「針」